山に入ったときに遭難する理由のトップが下山時の道迷いです。
これは、登山でもトレイルランでも山菜狩りでも、常にトップになっている理由です。それはつまり、迷っている事に気が付くのが、すでに迷ってしまった後だから、よっぽど3D地図的感覚を持ち、等高線が常に頭に入っていない限り起こりえるのです。
それを回避してくれるテクノロジーがすでに実用化されている事をご存知でしょうか。しかも、それがあなたが持っているスマホでできてしまう事をご存知でしょうか。今日はそれを皆さんに知ってもらい、遭難するリスクを最小限の費用で回避してほしいので書いています。
私は長年ガジェットオタクで、GPSシステムやスマホの原型となったパームトップPCなどを昔から使っていますが、皆さんが現在普通に使っている最近のスマホは、実はものすごいGPS最先端機器である事をご存知でしょうか?
スマホはGPSセンサーに加えて携帯電波を使って補足するA-GPS(Assisted GPS)に対応しているため、GPSウオッチなどの専用機器よりも捕捉が速く、大体1秒もあれば捕捉できます。また、電話の入りにくい山の上にいても通常のGPS機器同様にGPSセンサーがGPS衛星を3機以上捕捉できるよう上空が見渡せるところであれば、だいたい10~30秒程度で捕捉できますし、最近の機種(iPhone7以降など)では日本上空の軌道に浮かんでいる、みちびき(GPSを補足する準天頂衛星システム)も捕捉するため、従来より捕捉可能性は格段に高まっていて、大体10秒もあれば捕捉できる事がほとんどです。
つまり、普通のGPS専用機器をも上回る補足性能を持っており、より短時間で山の中の自分の位置が確認できるのです!
さらに、最近は優秀なナビゲーション機能を持っていて、ルートから外れた場合に警告してくれるものもあります。今回、メインで紹介したいのが、このナビゲーション機能を含むGPSアプリです。
何はともあれ、無料アプリや試用版もあるので、ぜひ一度使ってみて、その凄さを体感してみてください!いくつか私が使っているものを紹介します。
『山と高原地図』(高尾山のみ無料)
・基本的に紙同様の値段で有料ですが、高尾山のみ無料なので雰囲気はわかります。
・紙とまったく同様に標準コースタイムとカラー山地図なので、すぐに使えると思います。上のスクリーンショットを見ればわかりますよね。
・自分の位置と軌跡は取れます。(保存とかダウンロードはできないと思いますが、やったことないのでわかりません)
・ナビはできません。
・『山と高原地図ホーダイ』が出ているので、たくさんの山に行く方はひとつづつ買うよりこちらがお勧めかな。組み合わせてもいいかもしれません。
『YAMAP』 (原則無料だが、2019/12から無料でできる範囲が大きく制限されました)
この例では、トレニックワールドおごせときがわのコース地図を選択しています。375人がこの地図を歩いてルートを投稿しています。
上記例では、堂平山の地図を選択して表示しています。Startボタンを押せば簡単にルート記録ができます。ただしナビはできません。
・白黒地図ならば利用無料です。ただし、ユーザーが投稿した地図に限られるので、投稿されていない場合には参照できません。白黒でも等高線がきちんと入っているので十分使えます。
・ほかのユーザが実際に行ったGPSデータをSNSからダウンロードして軌跡表示ができるため、コースマップが不要!ただし、迷ったコースもそのまま表示されるので本文を読んで、どこで迷ったのか確認してから使います。この時、自分が行きたいルートがメジャーなルートでないとなかなか出ないので時間がかかります。
・注意点は、地図データが古い事があり得る事です。記載されているコースが今年走れるかはわかりません。また、いつの地図かも原則わかりません。ちなみに私はコースルートを信じて廃道に入り、崖っぷちに行ったことが2度あります。必ず、紙の地図『山と高原地図』地図などを用いて最新ルートかどうか確認してください。なお、山と高原地図は数年に一度改定され、改定年度が明記されます。 また、SNSの情報で今年も通れる道かどうか確認する手もあります。私は両方やります。
・たとえば丹沢大山に行くなら、home、everyone's postから「大山」で検索し、表示された投稿からダウンロードをタップすれば、地図と軌跡がダウンロードされ、今すぐ見るを選択すれば、コースが赤線で、軌跡が青線で表示されます。その表示画面でスタートを押下すれば、自分の走ったデータを記録し、ゴール後にクラウドに自動保存され、参照や投稿ができます。
『スーパー地形』(3日間のみ試用可能)
カシミール3Dの作者(DAN杉本氏)が開発した、スマホ向けの「スーパー地形」アプリ。これは年間たったの960円で使えます。
『スーパー地形』
https://www.kashmir3d.com/online/superdemapp/
これはですね、すご過ぎてぐうの音も出ないぐらいの逸品です。なぜならナビ機能を用いて逸脱を検出してくれるのみならず、アラート音で正確に知らせてくれるので、分岐毎に紙の地図をゴソゴソ取り出して睨めっこというのが全くいらなくなるのです。もし詳細を確認したかったら、アラート音が鳴った時にスマホを取り出せばどの分岐を逸脱したのかすぐに確認できてコースに復帰できます。ですので、これはトレイルランニングのレースでも使えます。
上の画像の例では、下の(南の)林道からやってきて、そのまま右に進むところを見逃し、左に(西に)下ってしまい、スーパー地形のアラート音で気が付いて戻っている途中の画像です。42mほど本来のルートから外れている事が示され、地図上には濃い赤線で戻るべき地点との直線が示されます。つまり、アラート音が鳴ったら、来た道を戻るだけです。必要に応じてスマホを取り出して、正しいルートに戻れたのかどうかを確認するか、アラート音が消えた事を確認してそのまま走り続ける事ができます。
ちなみに上の例で見逃した分岐は、ここの右端です。快適に左下に下って行ったとき、スーパー地形がアラートしてくれたので、わずか50m登り返しただけで引き返す事ができました。
スーパー地形でのナビの使い方の基本
地図上に取り込んだ青線のトラックをタップする。
表示されるメニューからトラックナビを選択する。逆順にするか聞かれるので選びます。
各種設定をしてからナビ開始。初回のみ設定します。私の今の設定は、50m逸脱。標準は25mですが、GPSデータが荒いために正しいルートを歩いている時でもしょっちゅう鳴ってしまうため50mに落ち着いています。カエルの音は、うるさくないけど気が付くお勧めの音です。他の音はうるさくてギョッとされる事が多いので。いろいろ試してみてください。
なお、正しいGPSデータを選択してスーパー地形に入れ込むには、少し儀式が必要ですので、以下で詳しく説明します。
正確なGPSデータを用意する
正確な逸脱検出には、正確なGPSデータであることが必須です。逸脱ナビは、あらかじめ自分でセットしたGPSデータから外れた場合に逸脱したとみなしてアラートをしますので、このGPSデータを正確なものにしなければ誤報だらけになってしまい、結果として機器をしょっちゅう取り出したり、紙のデータを見たりする必要が出てきてしまいます。よって、信頼あるGPSデータを使う必要があるのですが、それはほとんど間違いなくネット上には落ちていません。YAMAPなどには実際に辿ったGPSデータが載っているので正確では?と思うと思いますが、GPSデータ取得間隔は最低1秒、最大60秒~となっているし、GPSデータが取得できなかった場合にはスキップされるか、異なる地点が記録されています。よって、GPSデータは間違いなく補正をしないと使えないのですが、これはカシミール3Dというフリーソフトで簡単に修正できます。なるべく、このカシミール3Dで補正しました、と言っているGPSデータを拾ってきて、かつ自分の目で確かめて、補正してから使うのがベストです。もしくは私のようなGPSヲタクから補正済みGPSデータを入手してください。
※2019/1現在、ルートラボ - LatLongLabに掲載のルートはかなり精度が高くなっていると思いますが、いずれにせよダウンロードしたルートは、一度、ほかのルート地図と見比べて、正しい登山道を示しているかどうか検証する必要があります。※ルートラボは2020/3末に閉鎖されます
メールでファイルを送付する
ダウンロードして修正などしたgpxファイルを添付して自分に送付します。私は必ずカシミール3Dを使うのでWindows上で行なっています。
受信したメールの添付ファイルをスーパー地形に送る
以下は、iOS上のgmailアプリから添付されたgpxファイルをタップし、右上の送るアイコン(四角に上矢印のそれです)をタップした画面ショットです。
ここで送り先アプリのcopy toスーパー地形をタップすれば取り込まれます。
また、2018年末に「ヤマレコの地図アプリ「ヤマレコMAP」 - ヤマレコ」のiOS版にも「ルート逸脱警告」「スピーチ」の機能が付いたそうです。まだ試していませんが、使っている方はぜひ利用して感想を教えてください。
なお、スマホ以外でもGarminなどのGPSウオッチでも高級ライン(ForeAthlete 935とか)にも逸脱ナビ機能があります。使えるという話は聞きますが、バッテリー持ちが不安なので私は買うのを保留しています。スマホならモバイル充電器/ソーラー充電器でいくらでも充電できますから。
登山届のデジタル化
そして最後に登山届のデジタル化です。スマホGPSナビを使っていても、滑落や、怪我や病気などの理由で下山ができないけど携帯電波が入らず連絡ができない場合、登山届を出しているかどうかで、発見までの時間が短縮でき、生きて生還できる確率がかなり高まります。面倒な紙での当日提出とか、各市町村のホームページを探して独自で難解な入力をしていたりしていますか?そうであれば、行きの電車の中でサクッとスマホから提出できる以下の方法をお勧めします。
www.mt-compass.comコンパスに登録しておくと、下山通知をしないと自動的に緊急連絡者へ通知メールが配信されます。また、協力協定を結んでいる自治体とも連携をします。
※下山通知をしなかった場合の動きは以下のとおり。大体、忘れて3時間たってメール見て気が付いて、というパターンが多いような気がしますが、それで間に合います。
・下山予定時刻より3時間以上経過して下山通知が無い場合は申請者
・下山予定時刻より7時間以上経過して下山通知が無い場合は緊急連
それにしても使いにく過ぎて使う人が増えないだろうな~というUXです。絶対ユーザテストしてないのがわかります(笑)
Tips/補足など
・私は今のところ、YAMAP+スーパー地形+SNS情報でルートを確認し、YAMAPからダウンロードした軌跡をカシミール3D修正したGPXファイルをスーパー地形に取り込み、記録&トラックナビをしながら山に行っています。
・iPhone8と上記アプリを持っていけば、カメラもSuikaも防水ケースも持たずに山に行けるのでおススメです。
・すでに行ったことがあり、ルートを暗記をしているところに走りに行く場合は、紙地図も持参しません。スマホの故障と紙地図を落とす確率は同じぐらいだと思っています。
・一泊以上の場合や難解な山域の場合には、電池切れと故障時の対策として予備のiPhoneを持って行っています。
・ちなみにiOS8.3以前は機内モードにするとGPSが使えなかったのですが、今はできるようになったので、電池持ちを考慮して機内モード&低電力モードにするのがお勧めです。ただし、電波補足ができなくなりA-GPSも使えなくなるので、GPS捕捉が遅くなり、記録される軌道も雑になります。初回捕捉完了後に機内モードにするのがお勧めです。これで10時間程度は余裕で持ちます。
・なお、機内モードにしないと山の中では電池を通常よりも消耗します。山の中に進むにつれて4G(LTE)電波が補足できなくなり、そうすると3Gなどの下位互換電波を補足しに行くようになっているのですが、この時、4Gに比べて消費電力が増大するので、電池の消費が町中よりも激しくなります。また、4Gであっても、電波が取れない場合、補足のための出力を倍増して電波をキャッチする動きをするため、消費電力が激しくなります。一度、電波が入りにくいところでバッテリー残量を眺めてみると良くわかります。みるみるうちにバッテリーがなく、ある時すでにお亡くなりになります。